ニンニクが原因で男女仲に亀裂?『後拾遺和歌集』「巻二十 雑六」

  平安時代の和歌集、『後拾遺和歌集』にニンニクが原因で男女の恋がぐらついてしまうといった滑稽味を帯びた歌が詠まれています。

七夕にもちなんだ歌ですが、早速見ていきましょう。




巻二十 雑六 皇太后宮陸奥

ひるくひて侍りける人今は香もうせぬらむと思ひて人の許にまかりたりけるに名残の侍りけるにや、七月七日につかはしける

「君が貸す 夜の衣を 棚機は かへしやしつる ひるくさしとて」

 

 

どこにニンニクが登場しているのかというと、「ひる」です。漢字にすると「蒜」になりますが、これは「昼」と掛けています。現代語訳にすると以下のようになります。

 

 

昼に蒜を食べていたあなたの許に、今頃は臭いが消えただろうと思って行きましたが、まだ臭いが残っていたので、七夕の日に歌を贈りました。

「あなたが貸してくれた夜の寝巻きを、昼は臭いといって(蒜の臭さに)織姫は裏返してしまいました」

 

 

夜と昼が縁語になっています。棚機は、棚機津女の略で、織姫のことを指します。

 古語において「人」というと、夫婦間で用いる「あなた」という意味なので、ここでいう相手というのは天皇のことだと思われます。

 

皇太后は天皇と逢引をしましたが、昼に食べたニンニクの臭いが残っていてがっかりしてしまいました。それをやんわりと後日、天皇に伝えるという内容です。

 

 元々棚機とは、乙女が着物を織って棚に供え、神様を迎えるという行事のことでした。皇后は自分を織姫になぞらえて、織姫が天皇から借りた寝巻きを裏返したと表現しています。

ここでは、単純にニンニクの臭いの強さに裏返しにするという意味というよりも、「夜の衣を返す」という行為そのものに意味が込められていると考えられます。

 

 その昔、とても恋しい夜には寝巻きを裏返しに着て寝ることで、恋しい人に夢で会えると信じられていました。そのため、この歌での「夜の衣を返す」は、もう一度改めて天皇に逢いたいという意味が込められています。

 

 

 デートでの身だしなみが大切なことは、今も昔も変わらないですね。


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