「梨棗黍に粟嗣ぎ延ふ葛の後も逢はむと葵花咲く」『万葉集』巻十六 三八三四番歌

  『万葉集』の中に、秋に実る植物の数々、そしてオカノリが属するアオイ科の植物が登場する和歌があります。

早速見ていきましょう。




巻十六 三八三四番歌 作者不詳

「梨棗 黍に粟嗣ぎ 延ふ葛の 後も逢はむと 葵花咲く」

 

なしなつめ きみにあわつぎ はふくずの のちもあはむと あふひはなさく

 

原文「成棗 寸三二粟嗣 延田葛乃 後毛将相跡 葵花咲」

 

 

 

梨(なし)、棗(なつめ)、黍(きび)、粟(あわ)、葛(くず)、葵(あおい)と秋の実りを感じさせる言葉が続いています。実はこの植物には読み手の隠された意味が込められており、二つの現代語訳が浮かび上がります。

 

 

 

一つ目

「梨や棗、黍、粟が実っていますが、這う葛が後に絡み合う時には、葵の花が咲くでしょう」

 

二つ目

「早々に離れて君に会えずにいるけれど、葛のように後に落ち合いましょう、あなたと会う日にはこの恋心は満ちるでしょう」

 

 

 

 

一つ目は表向きに詠んだ場合の意味で、二つ目は真意を詠み解いた場合の意味です。一体、どう読めば二つ目の意味になるのかというと、以下の点を踏まえると見えてきます。

 

 

「梨棗」は訓読みでは「なしなつめ」ですが、音読みにすると「りそう」と読みます。これは「離早」と掛けており、早々に離れてしまったという意味を持ちます。

 

「黍に粟嗣ぎ」の音だけを見ると、「きみにあわつぎ」となり、「君に逢わず」と掛けていることがわかります。

 

「葵」を歴史的仮名遣いにすると、「あふひ」となりますが、これは「逢う日」と掛けています。

 

「花咲く」についてですが、花が咲くというと、盛んになる、栄えるという意味があり、恋の成就を示唆しています。

 

 

また、葛は「逢う」に掛かる枕詞として使用されています。

 


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