アロイトマト
奇跡の大玉トマト、誕生秘話
一般的にスーパーなどで出回る大玉トマトといえば、「桃太郎」ですが、桃太郎は一代雑種とも呼ばれるF1品種で、二代目以降は桃太郎ではなくなってしまうトマトです。その代り、人工的に品種改良を重ねたF1品種は栽培がしやすく形が工業製品のように整います。
「桃太郎」は、味を追求した品種で、なんと四種類ものトマトを掛け合わせています。1999年まで、これは人工的なF1品種だけがなせる業(味)だと思われていました。
1999年、大玉トマト界に衝撃が走りました。桃太郎を自家採種して固定化したという人が現れたのです。その人は、種屋でもなく、農家でもない飛騨高山の料理人(奥田春男さん)でした。奥田さんは五年の歳月をかけて自分の舌だけを頼りに固定化を成し遂げましたが、驚くべきことにその固定化されたトマトは桃太郎よりも糖度が高く、美味しいものでした。
奥田さんは野口種苗と種の販売に踏み切り、当時野口種苗の担当者がタイの農場から帰ってきたばかりだったことから、タイ語で「おいしい」という意味の「アロイ」とそのトマトに名付け、「アロイトマト」が誕生しました。
しんしゅう屋の畑のアロイトマト |
「固定種」への衝撃 農業を始める前に出会った「アロイトマト」
私が農業大学校に行って農業を学び始める前に、少しでも「農」について知っておこうと、様々な本を読んでいた時期がありました。偏見を持たないよう栽培の本などは避け、読み物としての農書を選んでいました。そして、帰宅する途中にたまたま立ち寄った日本橋駅のすぐそばにある丸善で、『タネが危ない』という本に出会ったのです。
『タネが危ない』は衝撃的でした。飛騨高山の料理人が自身の舌だけを頼りに創り上げたという固定種アロイトマトの話。カブの品評会でF1品種が1位になった際、とある種子メーカーの一人が「F1のカブなんてまずくてくえたもんじゃねえからな」と言い放った話。どの話も、固定種への興味を掻き立てられました。味の良い固定種とはどんなものなのか。「食べてみたい!」という一心で、必死になって「アロイトマト」の種を探しました。「アロイトマト」は案の定人気の品種のため、取り扱いが中止にされていたり売り切れていたりして入手するまでに半年以上かかりました。そして、やっと「アロイトマト」を手に入れたのです。
「アロイトマト」との対面
トマトは一般的に収穫中期から後期にかけて採れるものが美味しいと言われています。しかし、アロイトマトは初収穫から違いました。
「甘いっ!」というほど強くはないのですが、甘味の影に姿を隠していた旨味が徐々に顔を出し、緻密な果実と共に口の中をトマトの濃厚さで埋め尽くしてしまいます。トマト特有の青臭さや強い酸味がないため、そのトマトの余韻に浸れるのです。
言い過ぎかもしれませんが、アロイトマトを食べてからは、今まで食べていたトマトは「トマトの形をした何か」でしかないと感じるようになり、他のトマトを口にする度に「シャリシャリという食感の、味のない赤い何か」を食べているという感覚になってしまいました。
しんしゅう屋と固定種
固定種は現在、自分で育てなければ口にすることができないと言われています。これは、工業製品のように形の揃うF1品種のみが市場で生き残れるからです。そして、品種は味の八割を決めるとも言われており、美味しい品種を食べるためには手に入れて育てなければなりません。
しんしゅう屋では、固定種を重点的に取り扱っておりますが、僅か少ししかご用意することができません。ですが、農業と出会う前から探し求めていた「本物の味」をお届けすることができることを大変うれしく思います。
*しんしゅう屋のアロイトマトの旬は8月~9月
収穫したアロイトマト |
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